いつもなら、すぐ尾をふりながら玉太郎の方へとんで来るはずのポチが、ううーッ、ううーッと闇のかなたでうなるだけで、こっちへもどってくる気配はなかった。
「ポチ。どうしたんだい」
 玉太郎は携帯電灯をつけて足もとを注意しながら、愛犬のうなっている方角をめがけて走った。それは船首の方であった。甲板がゆるやかな傾斜で、上り坂になっていた。
 ポチはいた。
 舳の、旗をたてる竿が立っているが、その下が、甲板よりも、ずっと高くなって、台のようになっている、がその上にポチは、変なかっこうで、海上へむかってほえていた。しかし玉太郎が近づくと、にわかに態度をあらためて、尾をふりながら、上から玉太郎の高くあげた手をなめようとした。しかし台は高く、ポチはそれをなめることができなかった。
「あ、ここにいたね」うしろから声をかけて、ラツール氏が近づいた。
「ほう。そんな高いところへ上って。何をしているんだ」
「海の上を見てほえていたんですが、今おとなしくなりました」
「海の上? 何もいないようだが……」
 と、とつぜんポチが台の上におどり上って、いやな声でほえだした。

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